宇宙にいる間は出張扱い!?

——宇宙飛行士は宇宙空間で誰のために、どんなことをしているんですか?
 

山崎氏:とても大事なポイントですよね。宇宙飛行士という人たちは、日本であればJAXAという宇宙航空研究開発機構、アメリカであればNASA、ヨーロッパであればヨーロッパの宇宙機関と、やっぱりそういった国の機関に属しながら訓練をしています。なので、誰のためにというと、やっぱり国民のためになります。
 
国民の皆さんからの税金を使って宇宙開発をやっているんで、その国民の皆さんに還元をするというのが大きなミッションです。最近だと国だけではなく、民間独自で宇宙船を作ったり、民間独自の宇宙飛行士を募集したりという時代になりつつあるので、そうなってくるとまた別の観点の、産業としての宇宙飛行士と言う立場も出てくると思います。
これから民間の宇宙開発がどんどん広まってくると、国境を超えた社会の発展のためとか、宇宙事業を信じて投資をしてくれている人のためにとか、あるいは持続可能性、次世代の人材育成など、もっと色んな観点が増えるだろうなと思います。

逆に国とすると、国民のためであり、かつ、国はもっとリスクをとって、より最先端のことに挑戦していくというのがミッションだと思っているので、より長期的な観点で次世代への投資をするという役割、そして国際協調・外交の役割が大きいんじゃないのかなと思っています。


——山崎さんは宇宙空間でどんなお仕事をされていたのですか?
 

山崎氏:私は2010年にスペースシャトルディスカバリー号に搭乗して国際宇宙ステーションの組み立て補給ミッションに参加したんです。スペースシャトルの中にレオナルドと呼ばれる補給モジュールを搭載していて、それをロボットアームを使って国際宇宙ステーションに取り付けます。その後、レオナルドの中にたくさん実験装置を積んでいたので、それを一つ一つ所定の場所に組み込むというのがミッションでした。
 
実験については、私は15匹のネズミを一緒に連れて行ったんです。宇宙に行くと免疫が弱くなると言われていて、それをネズミを使って調べていたり、ぺんぺん草も実験していたんですけれども、それが発芽していく様子を観察したり、あとは自分たちの身体の表面の菌の繁殖だとか、色んな実験を行いました。国際宇宙ステーションの保守点検、メンテナンスもしていかないといけないので、そのメンテナンス作業などもやりました。

——ずばり、宇宙飛行士って、儲かるんですか?


山崎氏:宇宙飛行士の訓練中、JAXAで働いていた間は、公務員のお給料体系に準じています。なので、大体その公務員の方のお給料レベルを想像してくさればそれと同じです。


——ボーナスはありますか? 

山崎氏:ボーナスは他の公務員と一緒で、夏と冬とありますし、出張だとか海外に赴任しているときは、そうした出張手当、赴任手当というのもつきます。ただ余談なんですけれども、宇宙に行ってる間というのは、泊まるところはホテルではなくて宇宙船になりますし、食事も宇宙食を3食支給してもらうので、いわゆる出張手当っていうのはつかないんです、全部支給されるので(笑)。つまり、宇宙に行っている間は出張扱いなんです。何月何日から何月何日まで出張に行きます、行き先は地球周回低軌道ですという形で出張届を出して、上司の承認をもらってから行きます。

——宇宙に行く前は、何をしているんでしょうか


山崎氏:宇宙に行く前というのは訓練をするんですが、訓練は大体全体の仕事の中の30%〜40%位です。残りは他の人が宇宙に行っている時の地上からのサポート、例えば管制室に入って交信を担当したり、宇宙船で使う手順書、結構膨大な量なんですけれども、それを一言一句間違いがないようにチェックしていったり、会議に出たり、安全審査をしたりとか、地道な仕事が多いです。その合間を縫って自分自身の訓練を続けながら、宇宙に行ける日を待つ。待つということも、仕事の1つですよね。

——候補者になったら100%宇宙に行けるんですか?


山崎氏:日本人では今のところは100%、候補者になった人達はみんな宇宙に行っています。ただ訓練をしているからといって宇宙に行ける、という確証はないんです。自分自身が健康を崩してしまって行けなくなる場合もあったり、いろんな状況によって宇宙に行けない可能性もあります。アメリカやロシアなどでは実際にそういう例がありました。

私の場合は結局、宇宙飛行士候補者になってから実際に宇宙に行くまで11年間かかりました。途中4年目の時にスペースシャトルのコロンビア号の事故があって、しばらくスペースシャトルも飛べない時間があって、計画も不透明になってしまうなど、色んなハプニングが宇宙でも起こります。続けている間に、別の道に転向しようと言う形で、選択の1つとして違う道に行く方ももちろんいます。

子供が興味を持っていることを大事にする

——どうすれば宇宙飛行士になれるのでしょうか?
 

山崎氏:今はインターネットで情報がかなり取りやすいので、見ていただくと分かるように、自然科学系、いわゆる理系であること、大学を出てから3年間働いた経験があること、というのが大きな大きな条件です。つまり、大学卒業後、いきなり宇宙飛行士になるっていう人はいないんです。みんな自分の専門分野というのを持って、3年以上は働いてから宇宙飛行士になってくださいと、いわゆる中途採用の形で応募するというのが今の流れなんです。
 
だからまず宇宙に行きたい、宇宙飛行士になりたいと思ったら、その前に何を専門にしようとか、どんな分野で自分の軸を立てようということを考えて欲しいなと思います。あとは宇宙飛行士の応募条件というのは年々変わります。今の条件だけが全てじゃないです。昔はそれこそアメリカやロシアのテストパイロットの軍人さんしかなれなかったです。日本人がなれるなんて思ってなかったです。でも今はいろんな国から宇宙飛行士になれますし、研究者、学校の先生、科学者、お医者さん、エンジニア、パイロットなど、理系といってもいろんな人がなっているんですよね。
 

これからもどんどん広がっていくと思うんです。だから今の条件にないからというだけで決して諦めないで、自分で道を作る位の思いを持って欲しいなと思います。今の小学生の皆さんだと、65%位は今は存在しない職業につくと言われていますよね。今皆さんが想像もできないような仕事に就く方って結構多いと思うんです。私も自分が小学生の時は日本人の宇宙飛行士なんてまだ誰もいなかったので、思いもしなかったです。でも今は日本人の宇宙飛行士もたくさん出てきていますよね。だからもっといろんな想像をして欲しいです。今の見えている世界だけが全てじゃないということで、もっと想像力を働かして道を作って欲しいなと思いますね。

——子供が宇宙飛行士を目指すと言われたら、親は何をしてあげればいいでしょうか?
 

山崎氏:宇宙飛行士の仕事もこれからもっと多様化していくと思うんですね。国際宇宙ステーションでも、もういろんな人が滞在していますけれども、これから月に行く、火星に行く、そこで基地を作るとなると、例えば宇宙での食料も自給自足しないといけないということで、宇宙農業に力を入れているんですけれども、そうした農業の専門家が必要になってきたり、あるいは南極の昭和基地でもコックさんがいるように、宇宙に特化したコックさんっていう存在も必要になってきたり、あるいは宇宙での美容師さんだとか、あるいはもっと芸術家の方とか、今の宇宙飛行士像ではない、たくさんの多様性が広がるはずなんですよね。
 

だから今お子さんが興味を持っていることをまず大切にして欲しいなと思います。そこと宇宙とはきっと何らかの形で結びつくはずなんですね。その結びつく道を、結びつなげる手助けをしてあげて欲しいです。ちょっとプッシュしてあげて、声かけてあげるとか、お子さんだけではわからないような情報を少しずつ教えてあげるとか、あるいはこんなことやってるよとか、色んな体験できるような後押しをして欲しいなと思います。

——まだなりたいものが決まっていない子供に対して、どのように接すればいいでしょうか ? 
 

山崎氏:やっぱり子供は子供なりにいろいろと考えていると思うんですね。きっと大人が思う以上に考えているんだろうなと思うんです。けれども逆に考えすぎてわからないとか、あるいは本当に悩んでいるというお子さんも多いと思うんです。私自身も子供の時を振り返れば色々と悩んだし、迷ったし、進路に関しても結構悩みました。だからそういった時はまず見守って欲しいなと思いますね。その中でちょっと視点が広くなるような、1人で悩んでいるようだったら、ちょっと外に連れ出して何か視野を広げるようなきっかけを作ってあげられたら良いだろうなと思います。
 

あとは色んなことに触れさせたり、色んな人の話を聞くというのも、大きい意味があると思います。「あ、こういう生き方もあるんだなぁ」っていうのが、子供にとっても刺激でしょうし、親にとっても刺激になるんじゃないかなぁって。私自身も宇宙に行くまで長丁場だった時に、途中で結構やっぱり悩みました。
 
一度宇宙飛行士という道を歩んでいるとしても、ほんとにこのままでいいのかな、このままで宇宙に行けるのかな、どうしたらいいのかなぁ、自分だけじゃなくて周りにも苦労、しわ寄せがいっているんじゃないかなとか、色々考えることがあって。そういう時に、子供の時の純粋に「宇宙が好きだなぁ」という思いが大きなエネルギーになりました。

辛くても苦じゃないというか、自分で好きでやっているから、と思える、その感覚って大きいんだろうなぁと思ったんです。そういう経験をもとに、自分の子供が好きって思えることを、1つでも2つでも見つけてあげられたらと思います。これからは人生100年時代と言われていますが、
子供の好きな物を見つけてあげるって、子供の人生の中ですごく大きな力になるんじゃないかなと思います。
 

——山崎さんご自身は、子育てについて何かポリシーはありますか?

山崎氏:これって言う確固としたポリシーがあるわけでは正直ないんですけれども、自分自身はやっぱり働きながら子育てをしているので、なかなか思うように子供と一緒にいられないというもどかしさはあるんですね。だからこそ安心感を感じて欲しいなということで、夜寝る前には必ず「生まれてきてくれてありがとう」ということを子供に言うというのを日課にしています。一緒にいる時はもちろん、一緒にいられない時でも、「ちゃんと思っているよ」ということを伝えられたらと思います。上の子は高校生ですけれども、今でも忘れると催促されます(笑)。

あとはできるだけ子供が頼み事をしたいときとか、何か言いたいときは自分の言葉で言えるようになって欲しいので、急いでいる時は別ですが、あれとかそれとか、察して、という伝え方では、意地悪かもしれないですけれども「そんなんじゃあこちらは動かないよ」という態度をとっています。

金融教育に関しては、例えばお皿洗いしてくれたら「10円、20円」というようなルールはあるんですが、子供が毎回ちゃんとメモに書き留めて、1ヶ月の集計をして「合計これだけだよ」と申告の手続きをしないとお小遣いはもらえないよ、という形で、手続きの大切さも身につけて欲しいと思っていますね。

宇宙への間口を広げる

——最後に、現在はどのような活動をされているのでしょうか?

山崎氏:今はJAXAを退職して、内閣府の宇宙政策委員会の一員として政策の面から宇宙に携わっています。他にはいろいろな縁のある地域の科学館のお手伝いをしています。私も子供の時に科学館に通って興味を広げたように、今のお子さんたちがそうした科学館を通じていろいろ興味を広げて欲しいなと思っています。
 
あとは2年前にスペースポートジャパンという、一般社団法人を有志の仲間と一緒に立ち上げて、その代表理事をやっています。それは将来、日本からも有人の宇宙船が飛び立って戻ってこれるような、そうした宇宙港を作ろうという活動です。宇宙飛行士になりたいと思ってくれているお子さん達もいるでしょうし、私もいろいろ科学館だとか事業とかを通じて宇宙、科学に興味を持って欲しいなと思って活動しています。けれどもその宇宙飛行士自体の数が、過去何十年間、日本ではそれほど増えていない、変わっていないのも現実なんです。
 

なのでそうした興味を持ってくれた皆さんが実際に宇宙に行ける間口を広げたいなとずっと思っているんですね。逆にそうじゃないとすごくもどかしいというか、責任を感じてしまうというか。そのためには日本からロケットや人工衛星だけではなくて、人の離発着ができる、そういった仕組みが必要だろうと思い、そのための活動を行っています。

プロフィール

千葉県松戸市生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了後、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。1999年国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士候補者に選ばれ、2001年認定。2004年ソユーズ宇宙船運航技術者、2006年スペースシャトル搭乗運用技術者の資格を取得。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙へ。ISS組立補給ミッションSTS-131に従事した。2011年8月JAXA退職。内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、日本宇宙少年団(YAC)アドバイザー、松戸市民会館名誉館長、札幌市青少年科学館名誉館長、こまつサイエンスヒルズ館長、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館アンバサダー、日本ロケット協会理事・「宙女」委員長、一般財団法人BEYOND Tomorrow評議員、一般財団法人ワンアース名誉顧問などを務める。著書に「宇宙飛行士になる勉強法」(中央公論新社)、「夢をつなぐ」(角川書店)、「瑠璃色の星」(世界文化社)など。

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